認知症とは、病気や障害によって脳の働きが低下し、日常生活に支障をきたすようになった状態のことです。

認知症には主なものとして、アルツハイマー型認知症、脳血管型認知症、レビー小体型認知症があります。また最近では、認知症の前段階と言われる軽度認知障害(MCI)の早期発見と対策をとることで、認知症への進行を緩やかにできることもわかっています。

厚生労働省のデータでは、高齢化が進む中、認知症の方の人数は増える見込みで2025年には675~730万人まで増え、高齢者の約5人に1人が認知症になると予測されています。

認知症の症状は、「認知機能低下」と「行動・心理症状:BPSD」に分かれます。

・認知機能低下は、神経細胞が壊れるなどの脳の変化にともなって生じる記憶障害や理解、判断力の低下などの症状です。

・BPSDは周辺症状ともいわれ、認知機能低下に本人の性格や周囲の環境、人間関係などさまざまな要因が作用して起こる不安や焦燥、徘徊など心理面、行動面の症状のことをいいます。

つまり、BPSDは認知機能低下という中核症状が現れることで、本人が混乱したり、またできないことが増えたことによる落ち込み等により、うつ症状など多彩な周辺症状が現れることをいいます。そのため、環境や介護者との人間関係によって改善したり逆に悪化する場合もあります。

ここからは、アルツハイマー型認知症とレビー小体型認知症について詳しく解説していきます。

<アルツハイマー型認知症>

脳の神経細胞が減り、脳が小さく萎縮することで症状が現れる認知症です。新しいことが記憶できない、時間や場所がわからなくなるといった特徴があります。日本人の認知症の原因として最も多いとされています。

なぜ脳の神経細胞が減るのか原因はまだはっきりわかっていませんが、アミロイドβ(ベータ)と呼ばれる異常なタンパク質の蓄積が起こり、その毒性により脳の神経細胞が減ると考えられています。また、タウタンパク質の蓄積も原因の1つといわれています。

現在使われている薬は、認知症そのものを治す薬ではありません。あくまでも症状の進行を緩やかにして、本人が長くその人らしく暮らせるようにすることをめざします。現在では4種類の薬が発売されており、作用の仕方で大きく「アセチルコリンエステラーゼ阻害薬」と「NMDA受容体阻害薬」というタイプに分かれます。

①アセチルコリンエステラーゼ阻害薬

アルツハイマー型認知症では、脳内にある「アセチルコリン」という記憶や学習に関与する神経伝達物質が少なくなっていることがわかっています。

アセチルコリンは脳の中で情報を伝える役割を果たしているため、アセチルコリンが少なくなると脳内の情報伝達がうまくいかなくなり、認知機能に障害がでると考えられています。アセチルコリンエステラーゼ阻害薬は、アセチルコリンを分解する「アセチルコリンエステラーゼ」という分解酵素に結合し、アセチルコリンが分解されないようにする薬です。

認知機能以外にも、意欲や注意力の回復が得られ、会話が増え表情が豊かになることもあり、認知症の患者で無気力で活気の乏しい場合には適切な薬となります。

アセチルコリンエステラーゼ阻害薬には、ドネペジルリバスチグミンガランタミンがあります。これらは作用が同じため併用はできません。

②NMDA受容体阻害薬

アルツハイマー型認知症では、アセチルコリン以外に「グルタミン酸」という興奮性の神経伝達物質が関与していると考えられています。

グルタミン酸は記憶に関与していますが、アルツハイマー型認知症では、グルタミン酸が過剰に興奮することで脳の神経細胞を傷害していると考えられています。このグルタミン酸が作用する受容体の1種にNMDA受容体というのがあり、この受容体を阻害(ブロック)することで神経細胞の過剰な興奮を防ぎ、病気の進行を抑制します。

NMDA受容体阻害薬には、メマンチンがあります。

これらの薬以外に2023年12月20日にエーザイとBiogen社が共同開発した「レケンビ」(一般名:レカネマブ〔遺伝子組換え〕)が発売されました。レケンビは、アミロイドβ自体を除去できる世界で初めてかつ唯一の治療薬として発売されました。

<レビー小体型認知症>

レビー小体型認知症は、アルツハイマー型認知症と同じように脳の神経細胞がダメージを受けて少なくなる病気です。神経細胞の減少によって認知機能が低下するところは、アルツハイマー型認知症と同じですが、原因となる物質やダメージを受ける脳の部位が違うため、現れる症状には違いがあります。

原因として、脳内に「レビー小体」というタンパク質のかたまりができ、それによって神経細胞が破壊されることで起こります。

脳にレビー小体ができる病気には、レビー小体型認知症のほかにパーキンソン病があります。レビー小体型認知症とパーキンソン病は、非常に近い性格をもつ病気で専門家でも判別が難しいことがあります。

・レビー小体型認知症:脳の表面にある大脳皮質という部分にレビー小体ができます。

・パーキンソン病:脳の中心にある中脳部分にレビー小体ができます。

症状としては、アルツハイマー型認知症のようなもの忘れや言葉が理解できなくなるといった症状よりも、幻覚や妄想、パーキンソン病に似た運動障害(パーキンソニズム)、認知機能の変動​などがあります。

使用される薬剤は、アルツハイマー型認知症にも使用されるドネペジルです。それ以外には、パーキンソン病治療薬として使用されてきたゾニサミドが「レビー小体型認知症に伴うパーキンソニズム」で2018年に追加承認されました。